、名古屋大根の水ッぽいところを、一口も賞翫《しょうがん》したことがねえんでございます、宮重大根《みやしげだいこん》の太った白いところの風味は、また格別だってえ話じゃありませんか。ああ涎《よだれ》が……」
「たわけ者!」
五十嵐から小突きまわされて、がんりき[#「がんりき」に傍点]が、
「へ、へ、へ、旦那方は女の事と言いますてえと、よく、がんりき[#「がんりき」に傍点]を小突き廻したりなんぞなさるが、失礼ながら、旦那方だって聖人様ではござんすまい、昨晩も熱田の宿で聞いていりゃあ、ずいぶん、隅には置けねえお話を手放しでなさりやす……曲亭の文にも、人ノ家婦ニ姦淫《かんいん》スルコト他邦ニモアリトイエドモ、コノ地最モ甚《はなは》ダシ、とあるとか、名古屋ノ女、顔色ハ美ナルモ腰ハ大イニ太シ、とかなんとか、名古屋の女のこってりした風味をそれとなく、がんりき[#「がんりき」に傍点]の前でにおわして下さるなんぞはいけませんよ、お城の金の鯱を見せてけしかけなさるよりも、まだよっぽど罪が深いんでござんすぜ」
こんなふてくされを言いながら、二度目の目つぶしを用心して、がんりき[#「がんりき」に傍点]が、素
前へ
次へ
全514ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング