らまた一杯。
「あっ!」
ほとんど道庵をして、腰を立てるどころか、息をもつかせないほどの出来事で、札の辻の真中に腰を抜かし、醜態を遺憾なく曝した道庵は、盲《めくら》が壁を塗るような手つきをして、しばらくは、
「あっぷ、あっぷ」
と咽《むせ》ぶほかには、為《な》さん術《すべ》を知りませんでした。
そもそも、これは何という無惨なことでありましょう。例のプロ亀やデモ倉の、苦肉を以てのたくらみ、道庵を江戸からつけ覘《ねら》い、とうとうかかる下劣の手段で、闇討を決行してしまったものか、そうでなければ、先日の軽井沢の場合のように、道庵の親切が過ぎたための不慮の災難か、とにかく、こうして、前後左右から、つづけざまに水を浴びさせられた道庵は、一時、全く人心地を失い、腰が立てなくなって、陸上に溺没してしまったことですが、誰とてこれを助け起そうとする者もありません。
こういう場合に於ての宇治山田の米友――またしても危急存亡の場合に、英雄が居合わさない。
だが、この場合は全く軽井沢の場合と別に、一英雄が現われたとて如何《いかん》ともすべからざる事情であったのです。
それは、先生は知ってか知らずにか
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