まっすぐに白川へ行けないで、あやまって畜生谷へ落ちこまないことを誰が保証しますか?
それは、やっぱり弁信さんの取越し苦労ですよ。行こうと思えば、同じ人間の住んでいるところですもの、行けないということがありますものか。
もしや、畜生谷に迷い込んだところで……それはたとえですよ、それはたとえですけれども、迷って畜生谷へ落ちても、そこの人たちは決して、人食い人種ではありますまい。かえって人情には極めて親切な人たちばかりだと聞きましたから、わたしたちを導いて、また元の道へ送り帰らせて下さるに違いありません。
畜生谷と言いましても、地獄ではございません。鬼が棲んでいるのでもございません。話だけに聞けば、わたしたちが身ぶるいするほどのいやな風儀の谷であっても、そこの人情には変りがないばかりか、世間の人情よりも一層濃いものがあって、どうかして間違って、そこへ一晩でも泊った人は、帰ることを忘れるほどの、もてなしを受けるのだそうです。
その昔から、悪いと知らないで現われて来た乱婚の風儀を別にしては、畜生谷は、白川と同じことに、土地も、人情も、美しいところだと聞いていますから、御安心ください。
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