合によれば、わたしの宿へ今晩はお泊りなさいな」
「どうしようかなあ」
「一緒においでなさい、ね、千鳥塚はずいぶん淋しいところだと思うから、わたし一人で行くよりは、連れがあった方がいい」
「じゃあ、行ってみるとしようかな」
「そうなさいよ」
「うむ」
 米友は、脆《もろ》くもこの女の誘惑にひっかかってしまいました。
 常の米友ならば、一たまりもなく拒絶して、自分は名古屋に残して置いた主人のための責任感に向って一直線に動くはずであったのに、今日は存外歯ざわりが柔らかい。
 かくて二人は相前後して、路を裏に取り、教えられた通り、天王山の千鳥塚をさして行くべく、田疇《でんちゅう》の間の並木の中に身を隠してしまいました。

         五十四

 かくて二人が千鳥塚に着いた時分には、夕暮の色が、いよいよ濃くなっておりました。
 ここへ登って見ると、はじめて海が見える。この女の人が、絶えずあこがれているらしい海が、遥かに布を張ったようにほの白く見えました。
「ごらんなさい、ここへ来てはじめて、昔の鳴海潟の趣がわかりました。昔の歌によまれた時分は、海がもっと近かったのでしょう、だんだん、時代が
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