、そいつへ持って行って、誰かが弓張月をくっつけたんですね。そんな作り話を引合いに、がんりき[#「がんりき」に傍点]のねぶみを比較していただいちゃあ、迷惑千万でございますね」
「三田の薩摩屋敷には、慶長元和、太閤伝来の大分銅《だいふんどう》を目にかけて、そいつを手に入れようと江戸城の本丸へ忍びこんだ奴がいる、できてもできなくても、盗人冥利《ぬすっとみょうり》に、そこまで野心を起すところがエライ。貴様なんぞは、金の鯱を拝ませると、見ただけで眼がつぶれただけならいいが、腰まで抜けてしまいやがった」
「けしかけちゃいけません、旦那」
「けしかけたって、抜けた腰が立つ奴でもあるまい、まあ腰抜けついでに、見るだけでももう少し丹念に金の鯱を見ておけ。どうだ、朝日にかがやいて、いよいよ光り出してきたぞ、まぶしいなあ。初雪やこれが塩なら大儲《おおもう》け――という発句《ほっく》を作った奴があるが、あの鯱なんぞは、全部が本物だから大したものじゃないか、がんりき[#「がんりき」に傍点]」
「ほんとうにムクでござんすかねえ。ムクは評判だけで、実はメッキだってえじゃありませんか」
「ばかを言え、南の方の奴は高さ
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