山径である。そこで、土地の人が外出する時には、必ずなめくじ[#「なめくじ」に傍点]を二三匹と、蟹《かに》を煙草入の間に忍ばせて行く。なめくじ[#「なめくじ」に傍点]は蛇の属であるところの蝮を穴に追い込む道具で、蟹は猿を怖れしむるもの――そは冗談として、春夏の候、白川に入るの困難は、迷宮に入ることの困難の如くであるが、秋冬の間は、道がよく踏めてわりあいにその困難から救われるという。
 そうして、その難路を分け入って、白川村に着いて見れば、土地は美しく、人情は潤《うるお》い、生活の苦もなく、相互の扶助が調《ととの》い、しかも遠人を愛して、悪人といえども、悔いて身を寄するものは、赦《ゆる》して永久に養うことを厭《いと》わない、ひとたびこれに入ったものは、永久に帰ることを忘れる、というような――太古の民、神代の風、武陵桃源の理想郷といったようなものが、よくよくお雪の脳裡に描き出されて、あこがれに堪えられないらしい。そのあこがれがあるところへ、目下の身辺の、なんとなく不安を感じ出したものですから、その想像が、いよいよ切実に誘いきたるもののようです。

         四十八

 別に、その同じ
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