、先生、ただ一つ、おかしいことがございます」
 圧迫に堪えきれぬお雪は、ついに自分の指で、乳房にかかる竜之助の手を遮《さえぎ》るように押えて、向き直ろうとしましたが、その蒼白《あおじろ》い面《かお》が、肩の上に迫っているのを感じて、前後から銀山で押しつけられているような心地になりました。
「この夜中に、どことも当てもなく提灯《ちょうちん》が一つこの家から出て行きました、あれ、あの通りまた出て参りましたよ」
 一旦、谷間に隠れてしまった問題の提灯は、この時、また姿を現わしました。
 そうして、おもむろにこちらへ向いて戻って来る気色は確かです。
 お雪は、前後に圧迫の思いを以て、その提灯を見つめています。
 提灯は極めて静かに小径《こみち》を歩いて、段を上り、こちらへ近づいて来る。お雪は恐怖と幻怪の中に、今度こそは、その正体を見届けてやろうという気になりました。
 物怪《もののけ》でない限り、提灯だけが一つさまよい歩くという道理はありません。提灯はまさしく人の手によって携えられていればこそ、提灯としての通行があるので、今度こそは、提灯と、その主とが、明らかにお雪の眼に見て取られます。以前は
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