がんりき」に傍点]の百蔵が、思いきった大きなあくび[#「あくび」に傍点]を一つしました。
 そのあくびで、二人の経綸《けいりん》が興をさまし、南条が苦々しい面《かお》に軽蔑を浮べて、こちらを向き直るところを、がんりき[#「がんりき」に傍点]がまた思いきって両手を差し上げて伸びを打ち、
「先生、そんな英雄豪傑のちんぷんかんぷんは、わっしどもにゃあわからねえ。下町の方へおともがしてえもんでございますね、そうして百花《もか》でもなんでもかまわねえから、名古屋女てえやつをひとつ、拝ませてやっていただきたいもんでございます」
 それを聞いて南条が、
「は、は、は、英雄豪傑は貴様にはお歯に合うまい、熱田のおかめか、堀川のモカといったところが分相応だろう」
「え、え、その通りでございます。何でもようござんすから、早くその名古屋女のお尻の太いところをひとつ、たっぷりと見せてやっていただきたいもんでございます」
「まあ、待っていろ、女はあとでイヤというほど見せてやるから、もう少し念入りに、あの金の鯱《しゃちほこ》を見て置け、百」
「金の鯱なんざあ、さっきから、さんざっぱら眺めているんでございます、いやに
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