おろしながら、竜之助が言いました。
「あんまり、いい景色だものですから、寒いことも忘れてしまいました」
「そうかなあ、そんなによい景色ですか」
「ええ、それはそれは」
「景色はいいが、今晩はなんだか宿が物さわがしいではないか」
「いいえ……」
お雪が解《げ》せないと思いました。事実、今晩の宿といって特にさわがしいことはありはしない。自分の気のついている限りでは、いつもの通りの冬籠《ふゆごも》りの宿に何の出入りもない、空気の動揺もない、と信じていましたのに、この人はこんなことを言う。そこで、
「いいえ、騒がしいことは少しもございません、いつもの通り、ほんとに静かな山間《やまあい》でございます、静かになればなるほど、夜の景色が何とも言われません」
「でも、なんとなく物騒がしい晩だ」
「いいえ、やっぱり静かな晩でございますわ」
「そうかなあ」
その時、竜之助の深くさし込んだ左の腕が、お雪の乳房の首まで届きました。お雪でなければ、まあ、くすぐったいと、はしゃいで振りもぎるところでしょう。お雪は、最初から圧迫的な空気を、如何《いかん》ともすることができないで、ほとんど、二人が重なり合って立ち
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