しなかった、東西を打って一丸とする太夫元――後年、松竹という会社がやり遂げたことを、お角さんの手によって、やり得られないという限りもない――お角さんの気象としては、乗出す以上はともかくも、その辺までの客気がのぼせ上ったことかも知れません。それで話が、ずんずんと進んで、よろしい、一番脈を見に参りましょう、なんて道庵の向うを張る気になったらしい。
しかし、お角さんは、道庵先生とは違い、根が興行師だけに、かなり山っ気も向う見ずもあるが、また相当に腹のしめくくりがある。いかに乗り気になったところで乗出した以上は物笑いになるようなことをしでかして、江戸ッ児の沽券《こけん》を落したくはない。乗り気にはなっているがはしゃぎ[#「はしゃぎ」に傍点]はしない。
「なあに、わたしなんぞ、上方《かみがた》の衆を相手にしては第一イキが合いませんからね、何かやれたらお慰みですね。ですけれど、まだ、尾張名古屋というところは、話には聞いていますけれども、お恥かしながら、土地を踏んだことはございませんから……一度金の鯱《しゃちほこ》を拝みに寄せていただきましょうか知ら。名古屋へ行けばお伊勢様は一足だし、伊勢へ参れば
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