から、名古屋の女流界にはかなり鬱勃《うつぼつ》たる創業の意気が溢《あふ》れていたものらしい。つまり、女流界の芸人で、現在に反感を持つもの、不平を抱くもの、新方面に発展の先例を見、或いは新例を開かんと企てるもの……とにもかくにも、女流興行界に一種の鬱勃たる野心がこもっている。この鬱勃たる野心にうまく火をつける人があれば、事は大きくなるにきまっている。
 その空気を見て取った誰かが、お角さんに伝えたものらしい。
 人に屈下せざる、とにもかくにも自ら祖をなさんとする意気に満ちた女流芸人が、名古屋の天地に存在していないということはない。ただ憂うるところは彼等を踊らせる舞台廻しがいないことだ。八天下は無天下になり易《やす》い。人才があまりあって、経営者がないことの恨み。あればこの際、これらの野心満々たる女流才人を打って一丸とし、この鬱勃たる興行の空気をよきに統制して導く興行者さえあれば、名古屋女流が、天下に向って気を吐き得ること疑いなし。
 その不足と、遺憾の点を見て取ったその道の通人が、江戸へ往復のついでに、当時、異彩を放って、未だ老いたりという年でもないのに、あたら引退しているお角さんに眼を
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