もその面から消え失せて、
「ほんとうなの?」
「嘘じゃねえというに。お前は疑ぐり深え人だなあ」
「ほんとうにお前が米友さんなら、わたし、こんな嬉しいことはないわ」
「おいらだって、おんなじことだよ、お前がほんとうによっちゃん[#「よっちゃん」に傍点]なら、その次に嬉しくってたまらねえんだ」
と米友が言いました。心あわてているとはいえ、米友の言うことにはかなり不透明なところと、ひとり合点《がてん》もあるらしいが、娘を相当に納得せしめ得たことは疑いないらしい。
「まあ、嬉しい」
「おいらも、嬉しい」
「友さん、まあ、よく無事でいてくれたわねえ」
「あ――おいらも苦労したよ」
「ほんとうに――」
 二人は、そこで、人目も恥じずに抱き合ってしまいました。
 知ると、知らざると、弥次であると、弥次でないとにかかわらず、この急激なる妥協が、すべてのあいた口をふさがらせないことにしました。

         二十八

 この人騒がせも、後になって接待の茶屋で、二人の無邪気な会話を聞いていれば、なんのことはないのです。
 読者諸君は御存じのことでしょう、伊勢の古市《ふるいち》、間《あい》の山《やま》
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