ました。
「怖いわよう、放して下さい」
娘は顛倒して走りました。
「違やしねえんだよ、友だよ、網受けの米友なんだよ、お前《めえ》が本物のよっちゃんなら、おいらも本当の米友なんだよ、面を見たらわかりそうなものじゃねえか」
と叫びながら、追いかける。混乱したのは、それを見ていた同連と群衆だけではありません。
米友自身の言うところも、怖れておるところの娘の挙動も、何が何だかわかりません。
しかしながら、驚愕と、恐怖とで、夢中で走り出した娘の足と、あっけに取られている四方の人の慌《あわ》てふためいている間に、再び走りかかった米友が、右の娘の袂をつかまえて、全く動かさないことにしてしまったのは、雑作《ぞうさ》もないことで、
「ね、よっちゃん、もう一ぺん、よくおいらの面《かお》をごらん、米友に違えねえだろう」
と、三たびその面を摺《す》りつけました。
摺りつけないまでも、遠眼で見たって、一たび見覚えのある者にとっては、この男の面は忘れようとしても、忘れられない記憶となっているはず。
「あ、友さんに違いない、けれども、わたしの知っている米友さんは、もう生きていないんですもの」
娘は恐怖のあ
前へ
次へ
全514ページ中204ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング