それは問題にするに足りないし、道庵の頭が、かなり粗雑に出来ているところへ、米友の頭が、あまり率直に過ぎるから、この出鱈目《でたらめ》が両々、おかしくも、悲しくもないことに結着しました。
二人の間では、問題にならなかった肥後の熊本を、聞き咎《とが》めたのが同行のお数寄屋坊主です。
「先生、もう、なんですか、あなたは、万松寺へおいでになってごらんになりましたのですか、ずいぶんお早いことですなあ」
米友は、熊本が見える、見えない、ということをちっとも問題にしなかったけれど、聞捨てにすることのできなかった土地案内のお数寄屋坊主から、まじめに受取られて、道庵が少したじろぎ、
「いや、なあに、そのちっとばかり……」
とゴマかすのを、お数寄屋坊主はなおなお親切に受取り、
「もう、あれへお越しになりましたですか、実はこれから御案内をしようと存じておりましたところで……」
「結構ですな、どうぞ願いたいもんだ」
どうもここのところの受渡しがしっくり行かなかったものですから、お数寄屋坊主が少しばかり解《げ》せない面《かお》をして、
「では、まだおいでになりませんのですか、万松寺へは」
「万松寺へ?」
前へ
次へ
全514ページ中183ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング