四重の東北の室の段階から五重の台。
 五重はすなわち天上である。
 ここに藩主の御成《おなり》の間《ま》がある。
 これだけの関門を、道庵先生が、どうして突破して、ともかくも、その天守閣の上に立ったかということは、今に至るまで重大な疑問であります。
 かりに、非常の特典があってみたにしてからが、初重まではとにかく、二重以上へは、御用列以下の者は藩主のお側衆《そばしゅう》としておともを仰せつかった者以外には絶対に上れないことになっているはずではないか。
 それを、繰返すまでもなく、無位無官の一平民、しかもその無位無官のうちでも、最も安直な十八文を標榜して恥じないわが道庵先生が、どうして斯様《かよう》な特典を蒙ったかということは、わからない。まして、お客分として、この名古屋の城下へ来た道庵先生ではなく、注意人物の嫌疑者として、地下の獄に投ぜらるべく拘引されて来たはずの先生が、一躍して、天守の上へ舞い上って来ているということは、返す返すも、あざやかな脱線ぶりで、それを見る者、唖然《あぜん》として口のふさがらないのは無理もありません。
 しかし、道庵自身にとって見れば、実にいい気なものです
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