まえ。そのくせ、憎悪と苦痛の中には、多少の恐怖さえ閃《ひらめ》いて、さすがの仏頂寺も、お得意の腕ずくでは如何《いかん》ともし難いものと見える。
 幸いにして神主の方では、仏頂寺、丸山の存在には、ほとんど注意を払っていないらしく、兵馬にだけ淡泊に、
「わしはこれからまた乗鞍越しをして鐙小屋へ帰りますじゃ、お前さん、お大切《だいじ》においでなさい」
 山路を鳥のように走り行く神主の後ろ姿を見ました。
 実際、高山を見ること平地の如く、天変と気候とを超越すること金石の如き肉体でなければ、こんなことはできないと、兵馬は手を拱《こまぬ》いて、空しくその後ろ影を見送るばかりです。
 そこで、仏頂寺と、丸山は、生き返ったようになって、
「いやな奴だなア」
「いやな奴だよ、行者というやつは、乞食同様な奴さ」
「あんな奴の前へ出ると、何ともいえぬ悪寒《おかん》がして、ゾッと総身の毛穴がふくれるよ、単に悪い奴なら、ブンなぐりもして懲《こ》らしてやるが、あんなのは全くいやな奴だ、なんだかイヤにまぶしくって、胸がむかついて、つい手出しをする気にもなれない」
「そうだ、そうだ、あ、胸が悪い」
 仏頂寺と、丸山は
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