い当るのは、白骨の温泉に忘れ物をして来たことだ。そこで二人が取って返すと、途中、鐙小屋《あぶみごや》の神主というのにとっつかまって、あぶなく祓《はら》い給えを食いそうなのをひっぱずして白骨へ来て見ると、忘れ物もとんと要領を得ない上に、君ももう出立してしまった後なんだ。そこで、我々も残念がって、君の行方を聞いてみると、たしかに中の湯から安房峠《あぼうとうげ》を越えて、飛騨の平湯をめざして行ったと猟師の奴が話すものだから、それ追っかけろと、今早朝、白骨を立って、てっきりここと押しかけて見ると、果して、君がいてくれたんだ、こんな嬉しいことはない」
 兵馬にとっては、あんまり、嬉しくもなんともないことです。
 彼等と手が切れたことを、勿怪《もっけ》の幸い、と気安く思っているのに、この有様だ。
 よくよくの因果だな、この連中、やっぱり、振切ろうとしても、突っぱなそうとしても、やり過ごそうとしても、出し抜こうとしても、ついて離れない。
 イヤになっちゃうな――兵馬は呆れ返ったのみで、叱るわけにも、罵《ののし》るわけにも、追い飛ばすわけにもゆきません。
 そこを仏頂寺が、
「宇津木、さあ、これから高
前へ 次へ
全514ページ中150ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング