れましたよ」
「よろしうござんすかね、塩梅《あんばい》は」
「まず、このくらいのところならよろしうござんしょう」
道庵ほどになれば、嘗めてみないでも、眼で見ただけでも、味がわかるのかも知れません。
「にじむようなことは、ごわんすまいか」
「なあに大丈夫ですよ」
「分量は、このくらいあったら足りましょうでがんすかなあ」
「足りますとも、藤原の大足《おおた》りのたりたりで、余るくらいですよ」
「余りますか? そんならひとつ、先生、恐縮でがんすが、その余りでもって、唐紙《とうし》を一枚けえ[#「けえ」に傍点]ていただきてえもんでごわす」
「お安い御用だね、何なりとお望みなさい、こっちは、謙遜するほどの柄で無《ね》えんでげすからね」
と、道庵先生が答えました。
どうも問答を聞いていると、さっぱり予想と要領が外《はず》れるのに困る。まず、すれましたかな、すれましたの挨拶は無事でしたが、次に、にじむようなことはごわすまいかが、少々オカしくなってくる。にじむ味噌と、にじまない味噌とあるのかしら。
この辺は、味噌の名所だということだから、ところ変れば品変る方言も無いとはいえまいが、余ったら、それ
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