女殺し――」と言ったのは、その悩みを殊に、どろどろに感得せしめられたからであろう。そうでなければ、自分が、それと同じような犯《おか》せる罪あって、人を殺す音と、人を活《い》かす音を知り、殺す人、必ずしも活かす人ではないが、活かす人は、殺すことをも知っていなければならない。
芸術の魅力は毒である。有害であることを知り抜いて、芸術を弄《ろう》する者は、その殺活の機に、表裏徹透しておらねばならぬはずなのに、殺すことを知って、活かすことを知らないもの、その危険は、その感化の及ぶところのすべてを、窒死せしむると共に、自分をも焼亡する。
「女殺し」と言ったのは、ただなんとなく、濃烈なる甘い悩みの圧迫に堪えられなかったうめき[#「うめき」に傍点]の声に過ぎまい。
十八
北原と、村田とが相携《あいたずさ》えて、それからいくらもたたない時間の後、お雪ちゃんの部屋をたずねて、
「ごめんください」
障子の外から、言葉をかけた時に、
「はい、どなた」
それはお雪の返事には違いないけれども、非常に狼狽《ろうばい》したような返答ぶりでありました。
「私です」
北原は静かに、外から名
前へ
次へ
全514ページ中109ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング