ざいます、と申し上げるほかはございません」
「そうですか……」
北原はここで、また沈黙して、暫く尺八の音に聞き入っていました。
お雪も、尺八の音が起ってから、なんとなく、そわそわしたけれど、こうなっては急に立ち上るもバツが悪し、その主《ぬし》をそうだと名乗ってしまう以上は、なんだかちょっと荷も下りたような気がしますものですから、同じように、尺八に耳を傾けておりました。
「やはり鈴慕《れいぼ》ですね」
「はい」
北原はこの時、ほとんど感に堪えたようでありましたが――その途端といってもいい時、ハタと尺八の音がやみました。
その時、お雪は、急に引寄せる綱にでもたぐられたかのように、あわただしく立って、
「大へん長くお邪魔をしてしまいましたが、ちょっと失礼して参ります、用事が済みましたら、また上りますから」
あわてて十能を取り上げたのを、北原が火箸《ひばし》を取って、火を掻《か》いてやりながら、
「お雪ちゃん、わたしの方から、お雪ちゃんのところへ押しかけてはいけませんか」
「え、どうぞ」
お雪は、とってつけたような返答をして、二の句にまどいましたが、北原は、
「村田か、誰かつれて、
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