た。
 梅の木買収の協定が済むと、その一本毎に、東妙和尚は、与八の手から一枚の木札を受取ります。その木札は三寸に五寸ほど、新しく削らせて、上端に小さな穴が明けてある。沢井を立つ時、与八はそれを笊《ざる》に入れて荷《にな》って来たのを、一枚ずつ東妙和尚が受取って、おのおのの木ぶりをながめながら、矢立を取り出してその木札にサラサラと認《したた》める。
「それ与八、その巌の間にはさまれている大木にはこれを附けろ」
 認めたのは「重巌梅」――とある。
「さあ、次なる、その横へつんとのしたのは――それ、鳥道梅」
「こっちの方の枝の盛んなやつは白雲梅」
「そら、こっちの方に低く這《は》っているのが幽石梅だ」
「向うの谷間にあるのが聯渓梅」
「低く地についているやつが泣露梅」
「そら、これが吟風梅だ」
「その畔道《あぜみち》に小さくなっているのが迷径梅」
「それ践草梅」
「それ胆雲梅」
「そっちのは歌聖梅」
「あの一本立ちは無人梅」
「池の傍のは沃魚梅」
「ははあ、鳥がとまっているな、そこで鷦鷯梅《しょうりょうばい》だ」
「その枝のよく伸《の》したやつが安身梅」
「それは姿がいいから白鶴梅《はくつるばい》」
「亦楽梅《えきらくばい》」
「長条梅」
「馬屋梅」
「孤影梅」
「玉堂梅」
「飛雲梅」
「金籠梅」
「珠簾梅」
「娟女梅《けんじょばい》」
「東明梅」
「西暗梅」
 一木を得るに従って一名を選み、それをサラサラと木札に書いて、与八に与えて、それぞれの木に結びつけさせる。鈍重な与八が、応接に追われるほどの進行ぶり。見ていた村の持主たちまでが舌を捲いてしまったというのは、物の名をつけるのは、八兵衛、太郎兵衛でさえむずかしい、一木一草にでさえ、しかるべき雅名を与えるのは容易なことではない、おのおのの持ち分の老梅にも何とか名をつけたがったり、つけてもらおうとしたり、相当の学者に頼んでおいたりしても容易に出来ないのに、この和尚様は、一木を得るごとに一名を選むこと、数字の番号を打つことの速さと同じことだ、博学な坊さんもあったものだと驚く。それに頓着なしの東妙和尚、
「梅は、ずっと昔、支那から渡って来たものだということになっているが、それもしか[#「しか」に傍点]とはわからぬ、九州の梅谷《うめがや》というところ、甲州の富士の麓なんぞには、たしかに野生の梅があるのだからな。どうも、わしの頭で
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