様、御無事で結構には結構でございますが、角はずいぶんお恨み申し上げますよ。どうして、わたしのところをまあ、おことわり無しに出ておしまいになったのでございますか。お嬢様のためには、わたしはああしてあれほど、もうできます限り御機嫌に逆らわないように、お世話申し上げたつもりでおりましたのに、何が御不足で、おことわり無しにお出かけになってしまったのでございますか。お嬢様に出し抜かれた、わたしの身にもなって御覧下さいまし、口惜《くや》しいやら、辛《つら》いやらで、あの当時は、お嬢様に食いついてやりたいほどにお恨み致しましたが、それも、こっちの心がけが悪かったせいだと観念致しました。お出かけになるならお出かけになるように、一言そうおっしゃって下されば、何の事もございませんのに、角だってあなた、お嬢様の首に鉄の輪をはめてどうしてもお引留め申さねばならぬとは申しません、また、わたしたちが鉄の輪をかけてお引留め申したって、お引留め申すことができるほどのお嬢様でもございますまい。ほんとに、出し抜かれた当座は、わたしの気象として、腹が立って、腹が立ってたまりませんでしたけれど、こうしてお嬢様にお目にかかってみますと、もうそんな腹立ちは一切忘れてしまって、なんだか嬉しくて、おなつかしくて、つい、こんなに涙が出るような始末なんです、わたしも意気地がなくなりましたねえ」
と、お角は一息にまくし立てましたが、なるほど、それも口前ばかりではないらしく、お角の眼が、次第次第にうるおってくるようです。お角さんという女、まさか人を喜ばすために眼を湿《しめ》らして見せるなんという、しみったれた芸当をする女ではあるまいから、実際、こう言っているうちに、なんとなく、嬉しく、懐しくなって、珍しいことに涙を催してきたのかも知れません。
 といって、お角ほどの女が、お銀様に向っては苦手であることはいまさら申すまでもありません。
 お角さんほどの女が、このお銀様の前へ出ると何か気が引けて、先《せん》を越されて、圧迫を蒙《こうむ》るように息苦しい気持になることは、宇治山田の米友ほどの男が、このお角さんに向うと、どうも、すくんでしまうようなものです――だが、なるほど、恐縮の何物かを感ずる底に、また何とも言い難い一種の親愛がひそんでいるようにも見られる。
 お角ほどの女が、こうしてお銀様の前で涙ぐむのも、この言い知れぬ親愛
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