もその面から消え失せて、
「ほんとうなの?」
「嘘じゃねえというに。お前は疑ぐり深え人だなあ」
「ほんとうにお前が米友さんなら、わたし、こんな嬉しいことはないわ」
「おいらだって、おんなじことだよ、お前がほんとうによっちゃん[#「よっちゃん」に傍点]なら、その次に嬉しくってたまらねえんだ」
と米友が言いました。心あわてているとはいえ、米友の言うことにはかなり不透明なところと、ひとり合点《がてん》もあるらしいが、娘を相当に納得せしめ得たことは疑いないらしい。
「まあ、嬉しい」
「おいらも、嬉しい」
「友さん、まあ、よく無事でいてくれたわねえ」
「あ――おいらも苦労したよ」
「ほんとうに――」
 二人は、そこで、人目も恥じずに抱き合ってしまいました。
 知ると、知らざると、弥次であると、弥次でないとにかかわらず、この急激なる妥協が、すべてのあいた口をふさがらせないことにしました。

         二十八

 この人騒がせも、後になって接待の茶屋で、二人の無邪気な会話を聞いていれば、なんのことはないのです。
 読者諸君は御存じのことでしょう、伊勢の古市《ふるいち》、間《あい》の山《やま》の賑《にぎ》わいのうちに、古来ひきつづいた名物としての「お杉お玉」というものの存在を――
 そうして米友の唯一の友であり、兄妹であるというよりは、一つの肉体を二つに分けて、その表の方を米友と名づけ、その裏をお君と名づけたかのようにしていた、そのお君という子の芸名がお玉であったことを――
 それと同時に、お君のお玉と相棒になって、胡弓をひき、撥受《ばちう》けをいとなんで、さのみ見劣りのしなかったうたい手に、お杉がなければならなかったことを――
 今、ここで米友が「よっちゃん」と呼びかけてかぶりついた踊り子の娘が、すなわちこのお杉でありました。
 まあ、二人の無邪気な会話を聞いていればいるほど、筋はよく通ったものです。
「ねえ、友さん、君ちゃんにも、お前にも行かれてしまったあとの、わたしのツマらないこと察してごらん、一日だって忘れたことはありゃしませんよ、いどころぐらい知らせてくれたっていいじゃないの」
「そりゃあね、知らせるのは雑作もねえが、おいらたちは罪人扱いなんだからな、うっかり便りをしようものなら、こっちも危ねえが、お前たちの方にも、かかり合いになると悪いと思ってね」
「友さん、そ
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