の御祝儀のお供ぞろいみたようなものです。
 こんな、あたりまえのお供ぞろいに、さりとは仰山らしい人だかり、それをまた道庵ともあるべき者が、
「奇妙奇妙」
と、高い山から谷底でも見るような気持で、のびやかにそれを見下ろしている光景も、のどか[#「のどか」に傍点]なものです。それをまた、
「先生、いいものに、ぶっつかりました、これぞ、熱田西浦東浦の名物、元服の加儀の行列でございます、ほんとに今日の拾い物といってしかるべし」
 同行のお数寄屋坊主が、道庵の背中を叩いてけしかけるものだから、
「なるほど、奇妙奇妙」
 道庵には、この緩慢なる行列の正体がわかっているのかどうか、しきりに奇妙がって、中を見おろしていると……行列の主人公とも見える、水々しい新元服の美男が、いかにも横柄《おうへい》に、
「お取持、お取持」
と呼びます。
「はっ!」
 中老人の羽織袴のお取持、これは多分、先方からこの客を迎えのための案内役と覚しいのが、鞠躬如《きっきゅうじょ》として、まかり出てくると、新元服が物々しく、
「せっかく、お招きにあずかったは嬉しいが、前に、このような山があっては、進もうにも進まれませぬ」
と言いました。
「はっ、恐れ入りました、万事行届きません、では早速、山を取除かせて、道を平かに致させますでございます」
「急いで、お取りかかり下さい」
「委細心得ました」
 お取持が、扇子をパチパチさせながら、狼狽《ろうばい》ぶりを見せると、取囲む見物がドッと笑う。
「奇妙奇妙」
 道庵までが、悦に入って喝采する。米友にはわからない。
 この若い奴――水々しい新元服の横柄なこと――いま、聞いていれば、せっかく、お招きを受けて出て来たことは出て来たが、行手に山[#「山」に傍点]があって行けないと言ったようだが――山[#「山」に傍点]とは何だ、坦々たる平原都市の大路ではないか、山[#「山」に傍点]と聞いたのは聞き違いとしても、その前路になんらのさわりも無いではないか。
 そうすると、またお世話人と、お取持らしいのが両三名出て来て、仰山に、恐れ入ったふうをして、ペコペコすると、今度は、新元服に附添の、まだ前髪立ちの美少年が、振袖の袂《たもと》を翻して地上を指さしながら、屹《きっ》となって、ペコペコのお取持に向い、
「御案内によりお相客として、われらも罷《まか》り出でましたが、御正客の只今、おっし
前へ 次へ
全257ページ中94ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング