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小旦那どんが
どこへ出るにも
羽織きて
那古北条《なこほうじょう》は
いいとうりだのんし
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これは他国者でも少しはわかる歌。茂太郎から歌われて、小旦那なるものは、悪い面《かお》もせず、にっこと笑《え》む。
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チュガよ
チュガよ
チュガ公よ
そらそら
そちらを行っては
海へ落っこちる
もう少し
こちらをあゆびな
竜燈の松が見えるよ
洲崎《すのさき》は近いよ
お嬢さんが待っている
金椎君《キンツイくん》も待っている
チュガよ
チュガよ
チュガ公よ
[#ここで字下げ終わり]
十二
かくて、まだ朝といわるべき時間のうちに、早くも洲崎《すのさき》の、駒井の陣屋まで帰って来てしまいました。
「御苦労だったね」
このごろ、新築された厩《うまや》の前へ来て、茂太郎が牛から下りる。
厩には馬がいない。いないはず、これは駒井と田山とが、轡《くつわ》を並べて出て行ってしまったあとだから――
牛から下りた茂太郎は、牛の労をねぎらって、これに、かいば[#「かいば」に傍点]を与え、水を与え、雨に濡れた身体をぬぐうてやり、
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