《くすりもの》だから少しお食べ」
それは色の白い、ベタベタした透油《すきあぶら》のようなもの。飴《あめ》のようで飴ではない。あんまり見慣れないもので、第一、食べようからしてわからないから、遠慮をしていると番兵さんは、耳かきのような杓子《しゃくし》を取添えて、
「これは、チュガ公の母親がこしらえた白牛酪《はくぎゅうらく》だよ、薬物だから、少しお食べ」
すすめられるままに、その匙《さじ》のような杓子ですくい取って、少し食べてみたが、甘くも、辛くもない、薬物だというから、苦くもあるかというにそうでもない、妙に脂《あぶら》っこい、舌ざわりの和《やわ》らかな、口へ入れているうちに溶けてしまいそうなものだから、
「何だい、番兵さん、これは、味もなにも無いじゃないか」
「薬物だからね」
「何の薬になるの」
「何の薬ってお前、白牛酪なんてのが、滅多《めった》に口へ入るものじゃないよ」
と、そこで番兵さんが、茂太郎に、白牛酪の講釈をして聞かせました。
白牛酪は、この牧場の白牛に限ったものである。この牧場の白牛から搾《しぼ》り取った乳が、すなわち白牛酪となって、天下無二の薬品と称せられているのだ。
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