ついているというのも変ですから、或いはオホツク海あたりから来た大鷲《おおわし》が、浦賀海峡を股にかけて、天城山《あまぎさん》へでも羽をのばしたかも知れません。
見ているうちに、その姿も消えてしまいました。
そこで、茂太郎は、急に手持無沙汰の感じで、さいぜんの続きであろうところのたわごと[#「たわごと」に傍点]をうたい出しました、
「諸君、フムベールはイカサマですぞ。かれは権力を得ることができなかったために、民衆に結ぼうとしました。その民衆も生《は》え抜きの民衆ではなく、民衆の中の泡です、民衆を代表すると名乗って、実は民衆のカス、民衆の屑、民衆のあぶれ者の、浅薄なる寄集りを民衆と称して、それに近寄って御機嫌を取ったために、最も浅薄な、そのくせイヤに性質《たち》の悪い勢力を作ってしまいました。今でも、あのゴマカシ者を、不世出の偉人かの如く信ずる者があるから、滑稽ではありませんか」
茂太郎とても、興に乗じてはあえて弁信に譲らない饒舌《じょうぜつ》を弄《ろう》することがある。
しかしながら、いくら長く喋《しゃべ》っても、弁信のは条理整然として、引証的確なるものがあるが、茂公のは無茶苦茶
前へ
次へ
全128ページ中73ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング