妄想《もうそう》は、すべて運星のめぐりに邪魔をいたします……さあ、いらっしゃい、わたしたちの力を頼めば、どんな人でも幸福に向います。諸君、エライ占星師にはそんなことは決して珍しくない。マニラは曖昧《あいまい》である、フィルミクは当てにはならぬ、アラビイは怪しげな調子で、口から出まかせを言う、ジャンクタンはなんでもかでも言いたがる、スピナはとかく隠したがる、カルタンは英国王に迷うている、アルゴリュースはあまりにギリシャ臭く、ポンタンはローマ臭い、レオリスとブゼルは大道を辿《たど》っています……そこで自然の秘密を真底から知ったり、運星の幸運を判断したり、アポロのように、風と、死体と、地と、水とで、一切万人に未来のことを示したり、空中から甘露と、霊薬を絞り取って、オロマーズを加味してアリマンヌを除き、そうして、男爵夫人を乞食に恋のうきみをやつさせて、有名なスカルロンの詩を吟じさせたり、何人《なんぴと》にも十分の成功を予言したり、霊妙不思議な惚《ほ》れ薬、黒鉛《こくえん》に、安息香に、昇汞《しょうこう》に、阿片薬を廉価《れんか》に販売したり、まった、月日や年代を言い当てたりするのは、誰ひとりと
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