のでしょう。
しかし干渉は来らないが、感傷の起るのはぜひもないと見えて、茂太郎は愁然《しゅうぜん》として、同じ調子を二度繰返されてしまいました。
[#ここから2字下げ]
二人行けど
行き過ぎ難き
山道を
いかでか
君が
独り越ゆらん
[#ここで字下げ終わり]
二度目の歌では字句に少しの変化がありましたけれど、調子にはさのみ変りはありません。
歌いきった後、
[#ここから2字下げ]
いかでか君が独り越ゆらん――
[#ここで字下げ終わり]
これを茂太郎は折返しました。
聞くに堪えんや陽関三畳の詞《ことば》――といったような気分を自分が誘い出して、自分が堪えられないような心持で、ついに「く」の字に曲る路の折目に立って、暫く息を休めておりました――が、思いきって威勢のいい足を踏み出し、
[#ここから2字下げ]
クマニセントー通る時ゃ
前から鉄砲でドカドカと
あとからラッパで責めかける
今年ゃ何で苦労する
皆、天朝さんのかかり
[#ここで字下げ終わり]
軍歌のつもりかも知れません。これを進軍の歩調に合わせて、ホイチニといわぬばかりの勢いで、一気に、房総第一の高山の頂上までのぼりつめて
前へ
次へ
全128ページ中68ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング