られて来て、そのなかの一隻が破壊して、海の中へ沈んでしまった。乗組は、ほとんど仲間の船に救助されたが、船のみは如何《いかん》ともすることができず、完全にあの海の中に沈んでいる――それは二本マストの帆船《はんせん》ではあるが、サヴァンナ式の補助機関がついていた。それがそのままそっくり、銚子の浦のクロバエの海に沈んでいる――ということを、マドロス君が、駒井に向って、偶然に語り出でたのです。
 その某国《ぼうこく》というのはどこか知らないが、多分オロシャではないかと思われる。
 そうして、このことを語り出でたマドロス君の言い分が、でたらめのホラでないことは、その言語挙動の着実が証明する。
 おそらく、この先生も、当時その密猟船のうちの一つに乗っていて、親しく遭難の一人であったのか、そうでなければ他船にいて、実際、その船の沈むまでを見ていたものとしか思われないくらいの話ぶりでありました。
 さほどの船を沈めっぱなしで、音沙汰《おとさた》もなく行ってしまったのは、彼等密猟船自身の、疵《きず》持つ脛《すね》であろう。
 これを聞くと駒井は、天の与えの如き感興に駆《か》られてしまいました。
 その結
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