よりは、創造よりも困難に近い仕事に当ろうと決心したのは、一日の故ではありません。
彼は、これがために、この忙しい間を、石川島の造船所へ行ったり、相州の横須賀まで見学に出かけたりしましたが、駒井が時めいている時ならばとにかく、今の地位ではその見学も思うように自由が利《き》かないのか、途中から専《もっぱ》ら書物によることにして、蘭書や、英書のあらゆるもの――それは幸いに、自分が在職中に手をのばし得る限り買い求めておいたから、それによって工夫を立てることに立戻りました。
とはいえ、こればかりは、いかに駒井の優秀な頭脳を以てしても、一年や半年の間に捗《はか》を行かせようとしたことが無理で、駒井も、今はほとんど絶望の姿で、どのみち、機関無しの最初の構造に、逆戻りするほかはあるまいとあきらめるばかりです。
かく諦《あきら》めながらも、それでも彼の不断の研究心が、未練執着を断ち切れなかった時――偶然にも、彼の手許《てもと》へ新客となったマドロス君が、無雑作に、今の駒井の胸をおどらすようなことを言い出しました。
それは、この銚子の浜のうちの「クロバエ」という浦へ、先年、ある国の密猟船が吹きつけ
前へ
次へ
全128ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング