く、その中には多分の同情を含んだ会釈《えしゃく》を以て慰め面に、
「お前たちが見たというスッテンドウジは違うよ、性《しょう》がわかってるよ、驚くには当らねえよ」
「爺《じい》、お前《めえ》、知ってるのかい、あのスッテンドウジを……」
「は、は、は、お前たちが黒灰の浦で見たというのは、髪の毛の紅い、眼のでっけえ、海ん中に浮袋を持って、浮いたり沈んだりしていた奴だろう。あれは、スッテンドウジじゃねえのさ、おらが家のお客様だよ」
「え、お前《めえ》んちのお客様?」
「そうさ、もうやがて、ここへ帰って来るから見てえろ」
「鮪取《まぐろと》りの善さんじゃねえだろな」
「違うよ、全く別のお客様だよ」
「そうか、ほんとうにお前んちのお客様かえ。でも、大江山のスッテンドウジにそっくりだったぜ。お前んちにあんなお客様が、どこから来ていたんだ」
その時、真向うの畑道から、問題のスッテンドウジが抜からぬ面《かお》でやって来る。
四
来て見れば、これは極めて結構人《けっこうじん》らしい一個の西洋人で、東造爺に向って何か一言二言いっては、大きな面をゆすぶって、にやにやと笑っているところ
前へ
次へ
全128ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング