陣屋の中をのぞき込みました。
榊新田の古陣屋は、高崎藩が、この海岸の守護を承って、千人塚に砲台を築いた時分の名残《なご》りで、塀崩れ、屋根破れていたのを、昨今になって修理して、その中に人が働いています。
二人の少年が、のぞき込むと、車大工の東造爺《とうぞうじい》が、轆轤《ろくろ》をあやつっている。
「爺《じい》、大変なことがあればあるもんだぜ、黒灰へスッテンドウジが来ているよ、爺、お前《めえ》、早く行って見て来な」
車大工の東造爺は、けげんな面《かお》をして、
「え、スッテンドウジが――スッテンドウジが黒灰の浦へ来たって?」
東造爺だけが、少なくもこれだけに受入れてくれたのに、二人が力を得て、
「頭の毛の赤い、眼のこんなにでけえ、絵に描いてある通りだよ!」
「へえ……」
「爺、早く行って見な。行くんなら、鉄砲を持って行ったがいいかも知れねえぜ」
「は、は、は、は」
かわいそうに、せっかくここまで来て、東造爺までがまた一笑に附しはじめました。
少年たちは、見るも無残にしょげ返ったが、それでも、
「は、は、は、は」
と第二笑に附した東造爺は、ほかの者がしたように冷たいものではな
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