白雲が、一方《ひとかた》ならず悶《もだ》え出したようです。
駒井甚三郎は、田山の手から再びその紙片を受取って、英語の発音で、一度スラスラと読んでから、改めて、
「つまり、この短文の意味は、政府の目的というものは、人民と相尊敬し合って権力を行使せねばならぬものだ、権力を濫用《らんよう》してはならん、服従の無き自由は混乱であって、自由の無き服従は奴隷である――とこういう意味であります」
「なるほど」
「これはウイリアム・ペンという人の言った言葉のようですが、そのペンという人が何者か、いま思い当らない」
「毛唐でしょう」
「西洋人には違いないが、イギリス人か、フランス人か、或いはアメリカの人か、どの程度の人か、どうもわからないが、この短文の意味はこれだけで明瞭です」
「そうですね――もう一ぺん、その翻訳をお聞かせ下さい」
「とにかく、馬に乗りましょう」
駒井は右の紙片をかくしにハサんで馬に乗ると、田山もつづいて馬上の人となり、かくて二人は、また以前のように九十九里の浜の波打際を並んで歩み出し、そこで駒井は言いました。
「権力を用うる政府の最大主眼は、人民と相敬重《あいけいちょう》す
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