ることにあって、権力の濫用《らんよう》から、人民を確保しなければならぬ、服従無き自由は混乱であって、自由なきの服従は奴隷である――まあ、こんな意味です」
「ははあ、つまり、政府と人民とを対等に見、服従と自由とを、唇歯の関係と見立てたのですな」
「まあ、そんなものです、イギリスか、アメリカあたりの政治家の言いそうなことで、立派な意見です」
「しかし、駒井さん、西洋では、そんな理窟が通るかも知れませんが、日本では駄目ですね」
と白雲が、キッパリと言いました。
「なぜです」
「なぜといったって、政府と人民とが相敬重し合うなんて、そんなことは口で言ったり、筆で書いたりすれば立派かも知れないが、事実、行われるものじゃありません」
「どうしてです」
「人民なんていうものは、隙《すき》があればわがままをして、我利我利《がりがり》を働きたがるものですから、うっかり敬重なんぞをしてごらんなさい、たちまち甘く見られて、何をしでかすか知れたものじゃありませんよ、政府は政府として、威厳を以て人民に臨まなけりゃ駄目ですよ」
「依《よ》らしむべし、知らしむべからずですか」
「そうですとも。そりゃ一般の程度が進むか
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