文を認《したた》めて、固く封じ込んで、海の中へ投げ込むと、これが漂い渡って、思わぬ人の手に拾い取られる、その拾い取った人は、投げ込んだ主《ぬし》に返事をしてやる――という仕組みになっている」
「あ、そうですか、つまり、平康頼《たいらのやすより》の鬼界《きかい》ヶ島《しま》でやった卒塔婆流《そとばなが》しを、新式に行ったものですね。そうだとすると、相当に面白い浦島になるかも知れません、封を解いて見せていただきたいものです」
 田山も、好奇心に駆《か》られて、馬から飛んで降りました。
 駒井甚三郎はナイフを取り出して、流れ罎の口をあけようと試みながら、
「海に関係のある職業の人が、海流を調査するためにこれをやったのか、航海中、船客が戯れに投げ込んだものか、或いは漂流者か、誘拐者《ゆうかいしゃ》なんぞが、危急を訴えんがために、万一を頼んでやった仕事か、いずれにしても、この罎の中には、何かの合図があるに相違ない」
と言いました。
 田山白雲は額《ひたい》を突き出して、駒井のなすところを見ていたが、駒井は巧《たく》みに罎の口をあけると、それをさかさまにして、程なく一通の紙片を引き出しました。

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