分、アメリカの水兵どもがこの中身を飲んで、空罎をポンポン海の中へ捨てたものです、それが、こんなあんばい[#「あんばい」に傍点]に海岸に流れつくと、浦賀あたりの役人がそれを見て、あれこそ毛唐《けとう》が毒を仕込んで、日本人を殺そうとの企《たくら》みで投げ込んだものだから、拾ってはならない、無断であの空罎を拾った者は、召捕りの上、重き罪に行うべしとあって、人を雇うて毎日流れついて来る無数の空罎を怖々《こわごわ》と拾わせ、これを空屋の中へ積込んで、厳重に戸締りをして置いたものだ」
と言いながら、駒井は丁寧にこれを拾い、懐紙を抜き出して周囲《まわり》の海水を拭い、大切にこちらへ持ち帰りますから、
「毛唐の飲みからしの空罎《あきびん》なんぞを拾って、何になさる」
「見給え――この通り、厳重に封がしてあって、口に符号がつけてある」
「それじゃ、まだ中身があるのですか」
「中身といっても酒じゃない、酒は飲んでしまって、その空罎を利用して、中へ合図をつめて海に流したものです」
「ははあ」
「海流の方向を知るために、或いは何か通信の目的で、そうでない時は、単なる好奇心で罎の中へ、何事かの合図、或いは通信
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