ありましたね」
「ホラ、何か書いてあります」
空罎は下へ投げ捨て、駒井はその紙片をとりのべて見ると、そこに横文字の走り書がある。
最初から駒井は、これは、航海用の事務としてやったものではないと思っていました。
海流調査かなにかのためにやるんならば、もう少し仕事が器用で、事務的に出来ていそうなもの。どうも素人《しろうと》の手づくりで、臨時に投げ込んだもののようだから、たしかにこれは、漂流の人の手に成ったものか、そうでなければ誘拐の憂目《うきめ》に逢うた人が、訴えるにところないために、やむを得ずこの手段に出でたものだろうと想像していました。
しかるに、その現われた紙片の文字が横文字であったものだから、少しばかり案外には思ったが、横文字だからとて、その想像が外《はず》れたということはない、横文字で危難を訴えたり、危急を叫んだりすることはいけないという規則もない――問題はその意味を読んでみることです。
駒井は、仔細にその横文字を読んでみると、英語で次の如く認めてあることを発見しました。
[#ここから1字下げ]
It is the great end of government to
前へ
次へ
全128ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング