この一行の文字の意味がわからないらしい。
「へへ、へへ、これはね、旦那様、潮来の竹屋の女中さんの名で、こうして、わっしにみんなして、気を揃《そろ》えて、毎年一枚ずつくれるんでございますよ」
「なるほど、そうか」
そこで、白雲が、これは「ユキキンノブミヨ」と一行に読んでしまうからいけない、ゆき、きん、のぶ、みよ、と四つにわけて、四人の名にして読めば、手もなく解釈がつくのだとさとりました。
ところで、この若い船頭さんが、白雲に向って、これをきっかけに、よからぬ事をすすめる。
よからぬ事というのは、どうです、旦那、これから潮来へおいでになって、菖蒲踊《あやめおど》りを御見物になりませんか――ということです。
というのは、単に如才《じょさい》ないだけではなく、この提案が成功すれば、二重の役得があるという見込みが十分でしたから、御意によっては、鹿島へ行く舟のへさきを即座に変えて、潮来へじか[#「じか」に傍点]附けにして差上げますという、透《す》かさないかけひきを、白雲は頭から受けつけず、
「怪《け》しからん、神様へ参詣《さんけい》する前に、遊女屋へ行く奴があるか」
これで一たまりもなく
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