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参ろうや、参ろうや、ハライソの寺に参ろうや、ハライソの寺とは申すれど、広い寺とは申すれど、狭い広いはわが胸にあり
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と、いいかげんな節をつけて、お能がかりにうたい出すと、手をのばして般若の面を扇子《せんす》のように抱え込み、三番叟《さんばそう》を舞うような身ぶりで舞いはじめました。
 それが済むと、ガラリと変った烈しい身ぶりになって、
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ハライソ、ハライソ、サンタマリヤ
ハライソ、ハライソ、サンタマリヤ
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 これが踊りといえるか知らん、単に身体《からだ》の躍動だけに過ぎないのでしょう。
 でも曲折に巧妙な点はある。左の手は面をかかえ込んで、自由が利《き》かないものですから、右の手を高く上げたり、裏返したり、また体をクルリと後ろへ向けたりするところなんぞに、いかにもいい形を見せることがあります。
 伴奏としては、ハライソ、ハライソ、サンタマリヤを、単純に繰返すことだけに過ぎないが、興に乗って、身ぶり、足どりが烈しくなるほど面白い形を見せて、砂の上のしめりを含んで和《やわ》らかいところを、縦横無尽に踊
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