の憂目《うきめ》をこの房州が受けなければならぬ。用心のこと、用心のこと。
こちらに大砲は無いか、砲台の守り手に抜かりはないか。しかしまた、いかに毛唐《けとう》だって、単に薪水を求めに来たらしいのを、無暗にぶっ払うも考えものだ。尋常に交渉に来たら、尋常に挨拶するのが人間同士の作法だろうじゃないか。だが、言葉がわからない。言葉が通じないために、飛んだ行違いになりがちである。どうしたものだ――
そうそう造船所の殿様――は、外国の言葉を知っておいでなさる、うむ、それよりも、あすこには、このごろ本物がいた、本物の毛唐人が来ていた、いい幸いだ、あれを立合わせろ、あれを立合せて、聞くだけは聞いてやってからのことがいいじゃないか、そうして、どこまでも図々しければ図々しいように、こっちにも出ようがあろうというものだ。
「ナニ、あいにく、造船所には殿様も、本物もいないって……みんな揃ってどこへか出かけてしまったって、冗談じゃない、こういう時は、ペロが手柄を現わすじゃないか。ちぇッ、何だって今日に限って、留守なんぞになるんだ、ちぇッ」
海辺に立って騒ぐもののうち、気の利《き》いたのは、気が利き過ぎて、
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