どの地点を歩ませているのだか、どちらに向って歩ませているのだか、何を目的にここへ出かけて来たのだか、その辺のことが忘れられている。
二人の歩ませている地点は、蓮沼から富浦の間あたりのことで、行手は飯岡の岬、こし方《かた》は大東の岬、かれこれ九十九里の中央あたりのところを東北に向って、つまり飯岡であり、銚子である方面へ向って、静かに進んでいるのであります。
もう少し大ざっぱな数字でいえば、九十九里を四十七里半あたりのところまで、日本里数の十五里と見れば、七里半あたりのところまで進みつつありながらの、以上の会話であります。
二人の歩ませつつある地点はそうだとしても、二人はまた何用あって、この辺まで遠出をしてしまったものか。
それは一口に房総半島とはいうけれど、駒井の根拠地である洲崎《すのさき》の鼻から見れば、ここは数十里を距《へだ》てている地点であります。
さればこそ、二人のいでたちも、あの辺の海岸を、仕事の上や、興に乗じての散歩で往来するのと違い、立派な旅の用意になっているのが証拠ですけれども、その用向のほどは、甚《はなは》だ不可解なものがあります。
第一、二人がこうして、出
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