すが、ちょうど、面会の機会がありませんでしたから、この場へ入って来ても、おたがいに他人で、久助がまずていねい[#「ていねい」に傍点]に一座にあいさつをし、他の者がそれに会釈《えしゃく》をしたというようなあんばいで話が進むと、村田が、
「久助さん、お雪ちゃんはこのごろ、ちっともここへ出て来ませんな」
と言いました。
「はい、何かと忙しそうにしていますから」
と久助が答える。
 お雪ちゃんという名前だけでも、兵馬に思い出があるといえばあるのですが、お雪ちゃんという名前は、月見寺に限ったわけのものではなし、ここで兵馬が、特にその名にひっかかる理由もありません。
 程経て兵馬が久助に向い、
「あなたは、どちらからおいでですか」
とたずねました。それはこの男こそ、例の五人の神楽師の一行のほかだと見たからのことでしょう。そこで久助は、
「わしどもは、甲州の郡内《ぐんない》の方から参りました」
「甲州の郡内……」
「はい」
「郡内はどこですか」
「ええ、谷村《やむら》でございます」
「そうですか」
 ここで久助が、郡内は上野原でございます、上野原の月見寺でございます――といわないで、谷村と言ったのが
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