見れば、閑談の席へは行かず、入浴を志したものでしょう。
兵馬が手拭を下げて出て行ったあとへ、お雪が入って来ました。
炬燵《こたつ》へ火を入れて上げようとして来て見ると主《ぬし》がいないので、失望しましたが、鉄瓶にお湯があるかないか、お茶道具が揃っているかいないかというようなことを、ちょっと調べながら、机の上を見ると、半紙四つ折りの日記帳が開《あ》けっぱなしになって、その間に筆がはさんでありますから、お雪は見る気もなく、それをのぞいて見ました。
物を書くことの好きな、歌をつくることの好きなお雪は、このお客様も筆と紙とを、旅枕にも放さぬ人であってみれば、また同好の風流を話せる人ではないか、というような好奇心もあったものでしょう。
のぞけば、おのずから、読めるようになっているのだから、それを読んでみると、前にいう通りの棒書きで、歌もなければ詩もない。わが胸の燃ゆる思いに比ぶれば、焼ヶ岳の煙が薄いとか厚いとかいうこともなし、信濃の国の白骨となん呼べるいでゆ[#「いでゆ」に傍点]に遊びてしかじか、と書いてあるのでもない、いわば小遣帳《こづかいちょう》の出来のいいような、徹底的に実用向きの
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