でないところへ入りこんだのは、先方から何かの疑惑をかけられても仕方がない立場だから、これより以上は一歩も進まないで、その清興の人の心を、かりそめにも動かさず、静かにもと来し道へ帰るのが礼ではないか、と思いましたものですから、ちょっと行き悩みました。
しかし、兵馬が、こんな思案をして、用心して、引返そうとしているうちに、尺八の一曲も終ったと見えて、また、ひっそりした天地にかえったものですから、それならば、いっそ、ここをずっと突きぬけて、いま尺八の音のしたあたりの部屋の前をも通り過ぎて、廊下のはずれから二階へ下りて、自分の部屋へ帰った方がよかろうと思案を改めます。
つまり、尺八を吹き鳴らしている間こそ、人の清興をさまたげては悪いという遠慮気兼ねもあるが、それが済んでしまってさえみれば、さりげなき体《てい》で、尋常の通行人として、その通り去り、通り来《きた》る分には、何の憚《はばか》るところもあるべきはずがない。
そのように思案を改めたものですから、兵馬はそれからは忍び足もせず、間毎間毎をうかがうような振舞もせず、尋常に足音を立てて廊下を歩んで、志す方へと行きましたが、不思議なことには
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