一人は、お医者さんの修業でもなさろうというような風采《ふうさい》の書生さんですが――いま考えてみると、二人とも、どうも、どこやらでお目にかかったようなお方です……」
[#ここで字下げ終わり]

         八

 それはそうと、一方において、その晩、宇津木兵馬がかなり忍びやかに、この三階まで入り込んだことは事実であります。
 そうして、ここはと思われるような部屋部屋を、逐一《ちくいち》にのぞき廻っていたことも事実であります。
 好んで探偵眼を働かせるわけではないが、本来、この人は入湯に来たのではなく、人をたずね求めに来たのであります。
 そのたずね求める人というのは、主流には兄の仇であり、傍流にはかりそめ[#「かりそめ」に傍点]の道連れの女の人であります。
 前の者は身命を賭《と》して、探さんとする目的ではあるが、後の者はどうでもいいのである。
 どうでもいいよりは、そんな者にかかわり合いをつけない方がいいのである。
 だがしかし、世間のこと、人生のことというものは、求めんとするものほど来《きた》らず、求めざらんとするものほど近より易《やす》いもので、そこで、中房の温泉でも、こう
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