めんとして与えられず、掌《て》の中へ入れてもらいながら、それを受取ることを知らず、千里の遠くを見ながら、寸前の暗黒を如何《いかん》ともすることのできない悲劇、喜劇は、この人間の世に無数であるのみならず、天上においても、無辺際に繰返されている。
この場合、白骨温泉に落合った二ツの星が、どちらが惑星《わくせい》で、どちらが彗星《すいせい》だか知らないが、二つ共に、一定の軌道をめぐっていないことだけはたしかのようです。
従来、五年半の周期で太陽をめぐっていたレキセル彗星が、千七百七十九年、木星に接近したために、どうした変動か行方不明《ゆくえふめい》になって、今日まで出て来ないということです。
これに反してブルック彗星は、同じ星に接近したために、従来二十七年の周期が七年に短縮されてしまったということです。
地球人は、とうにハリー彗星と衝突していたはずだが、その衝突の酣《たけな》わなる時も、われわれは何の異状なく、今、現に大衝突をしつつあるのだという自覚にも、現象にも、触るることなしに、無事安穏に通過してしまいました。
昭和三年七月三日(西暦千九百二十八年)江戸川|大曲《おおまがり》
前へ
次へ
全157ページ中156ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング