く天空に向ってぼかされて行く間に、大洋に浮ぶ島々のように、ちぎれちぎれの雲が流れていたり、その雲の間を悠々《ゆうゆう》として、多くの鳥が泳いだりしています。
 お花畑のあたりでは、仰いで見た雲の山岳が、ここでは相呼びかわすの地位となりました。古人として見たものを、今人として見るのです。偉人として仰いだものを、友人として認めるの地位になりました。
 お花畑の花の色の透明にして深甚《しんじん》なのに酔わされた竜之助は、ここに来て、永遠と、無窮とを彩る、天地の色彩の美に打たれないわけにはゆきません。
 ふと顧みると、いつのまにか、自分のかたわらに立っていたお雪の姿が変りました。
 ははあ、また誰か意外の人が来ているなと、怪しんだのは瞬間で、
「あなたは、どの山を見ていらっしゃいますか」
 その声は、お雪に違いありませんが、その姿は、純白な笠に、純白の笈摺《おいずる》に、そうして銀のような柄杓《ひしゃく》を携えた巡礼姿であります。
「すばらしい眺めだよ」
と竜之助が、眼を拭いました。
「あなたのお目を、今まで塞いで置いたのは、こういう景色を見せて上げようがためではございませんでしたか知ら」

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