のだ」
「へえ、尺八と、木魚を聞いて、恐怖を感ずるという人をはじめて見た」
「しかし、恐怖というよりほかは言いようがないのだ、嫌悪《けんお》じゃなし、憎悪《ぞうお》じゃなし、やっぱり怖ろしいんだ、あの二つの音に、恐怖を感ずるとより言いようがない」
「君ほどの人がねえ……君の亡者ぶりには、大抵の人がおぞげをふるうのに、その君が、尺八と、木魚に恐怖を感ずる――さあ、弱味を見て取ったぞ、仏頂寺を殺すにゃ刃物はいらぬ、笛と、木魚で、ヒューヒューチャカボコ……」
十五
お雪が気を揉《も》もうとも、仏頂寺が恐怖を感じようとも頓着のない、この座敷のあるじは、感激の無い「鈴慕」の一曲を冷々として吹き終りました。
さあ、こまちゃくれたピグミー、昔を恨み顔な女――出て来るなら今のうちだよ。
だが、今晩は魑魅魍魎《ちみもうりょう》が出ないで、あたりまえの人が来ました。
「先生」
軽く息をきって、障子を忍びやかに開いて来たのはお雪です。
「御免下さいまし」
それは燈火《あかり》のついていない真暗な座敷です。
心得ているのか、入って来たお雪は、あれほど気の利《き》いた子でありな
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