で電車の大衝突があった日の数分前、同じ地点を通過した大菩薩峠の著者は、現在、武州御岳山麓の道場でこの小説の筆を執っているが、その数分時が、著者にもたらす運命の禍福に至っては、著者自身といえども予知することはできなかった。
 われわれは筆の調子で宇津木兵馬を引張り廻すのでもなければ、原稿の回数をひきのばすために、無用のペン先を弄《ろう》するわけでもない。
「毫釐《ごうり》有差天地懸隔」の道理が、可憐なる大菩薩峠の作者に、こうも筆を運ばせる。



底本:「大菩薩峠11」ちくま文庫、筑摩書房
   1996(平成8)年5月23日第1刷発行
底本の親本:「大菩薩峠 六」筑摩書房
   1976(昭和51)年6月20日初版発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:原田頌子
2004年1月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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